最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)833号 判決 1950年12月08日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人平岡清国の上告趣意第一点について。
他人の名義を利用して虚偽の転入届出をなし、その名義の主要食糧購入通帳に基いて食糧配給公団の係員に対し、恰も名義人が転入し居るものの如く装い、係員を欺き主要食糧等の配給を受けたときは詐欺罪が成立し、食糧緊急措置令第一〇条本文の適用がないと解すべきである。されば被告人の判示所為を詐欺罪をもって処罰した原判決は正当で論旨は採用できない。
同第二点について。
連続犯に関する刑法の規定は昭和二二年一〇月二六日法律第一二四号により削除せられたのであり昭和二三年一〇月三〇日附の本件公判請求書に公訴事実として記載してある犯罪事実は同年五月一〇日から同年一〇月一五日迄の犯罪事実であるから併合罪として起訴されたものと認められるのである。そして右公判請求書の公訴事実は被告人は昭和二三年五月初頃高田市役所に於て若島長治外九人が実際は高田市に居住しないものなるに拘わらず同月一〇日から同市に転入したものの如く虚偽の申告を為し受配の手続をした上高田市第三、第四配給所から同年一〇月一五日迄の食糧として米二二三瓩九八二瓦、砂糖二瓩、大豆八〇〇瓦、馬鈴薯二〇貫四〇〇匁、乾麺一六把、小麦粉四一瓩、甘藷一七貫五〇〇匁及び味噌、醤油、塩其の他の配給物資を騙取したものであると記載されているのであって被告人が同一欺罔手段によって右記載の期間配給物資の騙取を反覆累行したことが概括的に記載してあって個々の犯罪行為の表示として具体的でないという憾みは免れない。しかし本件の如く旧刑訴法事件に在っては新刑訴法事件と異り一件記録が起訴と同時に裁判所に送られる訳であり、本件の如き概括的な起訴事実の記載によっても記録と相俟って個々の犯罪事実を特定することができるのであるから本件起訴状をもって無効ということはできない。それゆえ論旨前段はその理由がない、また第一審判決は詐欺罪の起訴事実に対し食糧緊急措置令違反として処断しているのであるが控訴審たる原審が第一審判決を破棄することなくこれを詐欺罪として処断したからといって何等の違法なく論旨後段も採用の限りでない。
同第三点について。
所論は量刑不当の主張であるから適法な上告理由とならない。
よって刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
右は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)